【2026年度】運輸・鉄道業界14社徹底比較

運輸・鉄道業界は、就活生から見ると「電車・飛行機・船・トラックの会社」とひとまとめにされがちです。しかし実際には稼ぎ方も働き方もまったく異なる4つの業態が同居しており、そこを混同したまま志望動機を書くと、面接で必ず突っ込まれます。

この記事では、鉄道・航空・海運・陸運(物流)の主要14社について、2026年3月期決算の売上高・営業利益率有価証券報告書の平均年収を1枚の表に整理しました。あわせて、就活生の関心が高い残業時間と有給休暇については、各社が公式に開示している数値と厚生労働省の統計を並べて掲載しています。数値はすべて一次情報に当たって確認し、出典を記事末にまとめました。

この記事の要点
  • 収益性の差が極端に大きい業界です。営業利益率はJR東海の41.4%から、ヤマトホールディングスの1.5%まで約27倍の開きがあります。
  • 年収は「業態」でほぼ決まります。海運大手3社は有価証券報告書ベースで1,200万〜1,400万円台、鉄道は約680万〜880万円という水準です。
  • 2026年3月期はインバウンドと万博効果で鉄道・航空が過去最高益、一方で海運は運賃下落で減益という明暗が出ました。
  • ただし各社の2027年3月期は「減益計画」が並びます。中東情勢による燃油高と米国の通商政策が共通の逆風です。ここを踏まえた志望動機は差がつきます。
  • 残業・有給を統一形式で公表している企業は半数程度です。この記事では事業会社ベースの公式開示のみを掲載し、未公表の企業は「非公表」と明記したうえで、自分で調べる手順を第6章で解説しています。
目次

1. まず押さえる:運輸・鉄道業界は「4つの業態」でできている

運輸業を一枚の地図にすると、次の4象限に分かれます。ここを最初に頭に入れておくと、以降の数字の意味がすべてつながります。

業態収益の源泉景気・市況の影響勤務地の性格
鉄道沿線人口からの運賃収入+不動産・流通などの沿線ビジネス小さい(国内需要が土台。ただし人口減は長期の逆風)自社沿線内で完結しやすい
航空国際線・国内線の旅客収入、貨物、マイル/金融中〜大(燃油価格・為替・地政学リスクに直結)空港と本社。海外駐在もある
海運運賃市況(コンテナ・自動車船・バルク・LNG)非常に大きい(市況で利益が数倍変動)本社は東京中心。海上職は船上勤務
陸運・物流宅配・3PL・国際フォワーディングの取扱単価×物量中(EC需要と人件費・燃料費に挟まれる)全国拠点。転勤が多い

ここで理系就活生にとって重要なのは、「同じ理系職種でも、業態によって守るものが違う」という点です。鉄道の技術系は約100年使う社会インフラを守り、航空の技術系は1機数百億円の機体を守り、海運の技術系は市況で価値が変わる船隊を最適化し、物流の技術系は日々変わる物量をさばくネットワークを設計します。時間軸がまったく違うのです。

2. 【一覧比較】運輸・鉄道業界14社(2026年3月期)

鉄道6社・航空2社・海運3社・陸運3社の計14社を、業態ごとに売上高順で並べました。ゴールドの太字は業界内で特筆すべき水準の数値です。表は横にスクロールできます。

横にスクロールできます
企業名 売上高 営業
利益率
平均年収
(有報単体)
主要勤務地 主力事業・特徴
■ 鉄道(国内インフラ型)
JR東日本
東日本旅客鉄道
3兆846億円 13.4% 767万円 東京(渋谷)・首都圏/東北・信越 国内最大の鉄道会社。運輸事業に加えSuica経済圏・駅まちづくり・不動産を展開。全セグメント増収増益で発足以来の最高収益
JR東海
東海旅客鉄道
2兆62億円 41.4% 810万円 名古屋・東京・大阪・静岡 東海道新幹線の圧倒的な収益力。営業利益8,302億円。リニア中央新幹線を自己負担で建設中という点が他社と決定的に違う
JR西日本
西日本旅客鉄道
1兆8,458億円 10.7% 684万円 大阪・京都・神戸・広島・岡山・金沢 大阪・関西万博とまちづくりで5期連続増収増益・過去最高益。不動産業が前期比22.8%増。総合インフラマネジメント事業も推進
阪急阪神HD 1兆2,035億円 10.6% 約870万円※1 大阪(梅田)・兵庫・京都 都市交通・不動産・エンタメ・情報通信・旅行・国際輸送の6事業。グラングリーン大阪と阪神タイガースが寄与し全項目で過去最高
東急 1兆861億円 9.5% 883万円 東京(渋谷)・神奈川東部 私鉄で最も「まちづくり」色が濃い。交通・不動産・生活サービス・ホテルリゾートの4事業。渋谷再開発が中核テーマ
東京メトロ
東京地下鉄
4,224億円 21.2% 約795万円 東京23区(本社:台東区) 2024年上場。9路線を高密度運行し鉄道単体で高収益。有楽町線延伸(豊住線)・南北線品川延伸という大型建設プロジェクトを抱える
■ 航空(国際需要連動型)
ANA
ホールディングス
2兆5,392億円 8.6% 730万円※1 東京(汐留)・羽田・成田・全国空港・海外 売上高・営業利益・純利益すべて過去最高。国際線旅客収入8,789億円。日本貨物航空(NCA)を連結化し貨物網を強化
JAL
日本航空
2兆125億円 10.8%※2 949万円 東京(天王洲)・羽田・成田・全国空港・海外 再上場後初の売上収益2兆円超。EBIT2,180億円で過去最高。ZIPAIR等のLCC、マイル/金融・コマース事業という3本柱
■ 海運(市況変動型)
日本郵船 2兆4,237億円 5.7% 1,435万円 東京(丸の内)・海外拠点/海上職は船上 定期船・自動車船・ドライバルク・エネルギー・物流の総合海運。経常利益2,111億円(持分法のONEを含む)。減収減益
商船三井 1兆8,250億円 7.0% 1,437万円 東京(虎ノ門)・海外拠点/海上職は船上 LNG船・海洋事業などの長期契約型ビジネスに軸足。不動産・フェリーなど非海運も展開し市況変動の緩衝材にしている
川崎汽船 1兆184億円 8.3% 1,223万円 東京(西新橋)・神戸・海外/海上職は船上 製品物流(自動車船)が主力。エネルギー資源事業のセグメント損益が前期比96.9%増と改善。3社中最も規模が小さく市況感応度が高い
■ 陸運・物流(労働集約+ネットワーク型)
NIPPON EXPRESS
ホールディングス
2兆5,748億円※3 2.0% 833万円※1※3 東京(千代田)・全国・海外(世界50か国超) 旧・日本通運。国際フォワーディングの国内最大手で海外売上比率が高い。警備輸送・重量品建設という特殊物流も持つ
ヤマト
ホールディングス
1兆8,657億円 1.5% 1,226万円※1 東京(中央区)・全国約1,800拠点 宅急便のパイオニア。プライシング適正化で297億円の増益効果を創出し営業利益は前期比99.2%増。集配拠点の大型集約を推進中
SG
ホールディングス
1兆6,448億円 5.5% 769万円※1 京都・東京・全国拠点・海外 佐川急便が中核。デリバリー事業で1兆485億円。低温物流(名糖/ヒューテック)とグローバル物流をM&Aで拡張中

【数値の前提と注記】必ずお読みください

売上高・営業利益率:各社の2026年3月期 決算短信(連結)より算出。営業利益率=営業利益÷売上高(営業収益)。

※1:阪急阪神HD・ANA HD・NIPPON EXPRESS HD・ヤマトHD・SGHDは持株会社です。有価証券報告書の平均年収は「提出会社(=持株会社)単体」の数値で、本社機能の社員が中心となるため、実際に採用される事業会社(阪急電鉄・全日本空輸・日本通運・ヤマト運輸・佐川急便など)の水準とは異なります。持株会社の年収を業界比較にそのまま使わないでください。

※2:JALはIFRS適用のため、営業利益率に代えて会社公表のEBITマージン(10.8%)を記載しています。

※3:NIPPON EXPRESS HDは12月決算のため2025年12月期の数値です。

平均年収:有価証券報告書「従業員の状況」の平均年間給与(提出会社単体)。比較の一貫性を優先し2025年3月期基準で統一(NX HDのみ2025年12月期、阪急阪神HDは直近報告値)。2026年3月期の有価証券報告書は2026年6月提出のため、全社分が揃った時点で数値が上振れする可能性があります(例:JR東日本819万円、JR東海860万円)。

残業時間・有給休暇:算定の対象範囲が企業ごとに異なり横並び比較ができないため、この表には含めていません。第5章に事業会社ベースの公式開示と厚生労働省統計を、第6章に自分で調べる手順を掲載しています。

3. 14社の特徴と、理系はどこで関わるのか

比較表の数字の背景を、業態ごとに1社ずつ解説します。各社の見出しをタップすると詳細が開きます。「理系のポイント」には、その会社で技術系がどんな仕事に就くのかを書いています。

鉄道6社

01JR東日本(東日本旅客鉄道)売上高トップ

売上高 3兆846億円/営業利益率 13.4%/平均年収 767万円/本社 東京都渋谷区

2026年3月期は営業収益3兆846億円(前期比6.8%増)で5期連続の増収、会社発足以来の最高収益を更新しました。営業利益は4,142億円(同9.9%増)で、全セグメントが増収増益です。主力の運輸事業は営業収益2兆458億円・営業利益1,944億円でした。

経営ビジョン「勇翔2034」のもと、モビリティと生活ソリューションの二軸経営を掲げています。Suicaを起点とした決済・データ事業、品川・渋谷・新宿などの駅まちづくり、不動産・ホテルへの展開が収益の柱として育っており、「鉄道会社」というより「沿線を経営する会社」に近い姿になっています。

理系のポイント

採用職種の幅が業界随一です。線路・橋梁・トンネルの土木、駅舎・駅ビルの建築、変電・架線・信号システムの電気、車両設計と検修の機械、そしてSuica基盤やAI活用のIT。「土木で入ってまちづくりに関わる」「電気で入って自動運転技術に関わる」といったキャリアの伸びしろが大きいのが特徴です。エリアが首都圏から東北・信越まで広いため、配属地の希望は早めに整理しておきましょう。

02JR東海(東海旅客鉄道)営業利益率41.4%

売上高 2兆62億円/営業利益率 41.4%/平均年収 810万円/本社 名古屋市

2026年3月期は売上高2兆62億円(前期比9.5%増)、営業利益8,301億円(同18.1%増)で、営業利益率41.4%という製造業でもまず見ない水準に達しました。東京・名古屋・大阪という日本最大の需要区間を東海道新幹線1本で押さえている構造が、この収益性の源泉です。

一方、2027年3月期は売上高1兆9,930億円・営業利益7,020億円と減収減益を計画しています。この高収益はリニア中央新幹線の建設原資であり、国の財政投融資を一部活用しつつ基本的に自社負担で超大型プロジェクトを進めている点が、他社と決定的に異なります。

理系のポイント

土木・機械・電気の3分野が中心で、超電導リニアの走行試験、N700Sの車両技術、東海道新幹線の大規模改修が主戦場です。「日本の技術の最前線を、営業運転しながら更新する」という難易度の高さが魅力になります。勤務地は名古屋・東京・大阪・静岡が軸で、リニア関連で山梨・長野・岐阜への配属も増える傾向です。

03JR西日本(西日本旅客鉄道)

売上高 1兆8,458億円/営業利益率 10.7%/平均年収 684万円/本社 大阪市

2026年3月期は営業収益1兆8,458億円(前期比8.1%増)、営業利益1,980億円(同9.9%増)で5期連続の増収増益・過去最高益。大阪・関西万博の利用増と、大阪駅・広島駅周辺のまちづくりが効きました。不動産業セグメントは営業収益2,857億円(同22.8%増)と伸びが大きく、事業ポートフォリオの転換が進んでいます。

2026年4月から「中期経営計画2030」が始動し、「安全、良質でサステナブルなモビリティへの変革」「事業ポートフォリオの変革」を掲げています。総合インフラマネジメント事業「JCLaaS」や新決済サービス「Wesmo!」といった、鉄道以外の収益源づくりが明確です。

理系のポイント

2005年の福知山線列車事故を踏まえ、安全に対する取り組みの言語化が社内で徹底されている会社です。ホーム柵・ホーム安全スクリーン、山陽新幹線の耐震補強、光ファイバセンシングによる設備異常検知(NTT西日本との共同検証)など、技術系のテーマが具体的に開示されています。面接では「安全とは何か」を自分の言葉で語れるかが問われやすい会社です。

04阪急阪神ホールディングス

営業収益 1兆2,035億円/営業利益率 10.6%/本社 大阪市(梅田)

2026年3月期は営業収益1兆2,035億円(前期比8.7%増)、営業利益1,271億円(同14.7%増)、純利益785億円(同16.5%増)と全項目で過去最高を更新しました。マンション分譲を含む不動産事業、万博需要、阪神タイガースのリーグ優勝が寄与しています。

都市交通・不動産・エンターテインメント・情報通信・旅行・国際輸送という6事業を持ち、連結売上のうち鉄道(都市交通)は2割弱。関西私鉄グループとしては最大規模で、梅田エリアの再開発が長期の成長ドライバーです。阪急電鉄の座席指定サービス「PRiVACE」の拡大、阪神電鉄の新型車両導入も進んでいます。

理系のポイント

採用は持株会社ではなく阪急電鉄・阪神電気鉄道などの事業会社単位が基本です。鉄道の土木・電気・車両に加え、不動産開発の建築・設備という道もあります。関西圏内で腰を据えて働きたい人には有力な選択肢です。

05東急

営業収益 1兆861億円/営業利益率 9.5%/平均年収 883万円/本社 東京都渋谷区

2026年3月期は営業収益1兆861億円(前期比3.0%増)、営業利益1,031億円(同0.3%減)。交通事業は輸送人員が増えたものの修繕費・人件費増で減益、不動産販売業は前期の大型物件販売の反動で減益となり、ホテル・リゾート事業がインバウンド需要で大幅増収増益となりました。

東急の特徴は「鉄道会社が沿線の価値そのものを経営している」という点にあります。渋谷再開発(Shibuya Upper West Projectなど)を軸に、東京駅周辺を超えるオフィス賃料・銀座を超える商業賃料を目標に掲げるという、鉄道会社としては異例に踏み込んだ不動産戦略を公表しています。2027年3月期は営業収益1兆1,400億円・営業利益1,100億円と増収増益を計画しています。

理系のポイント

鉄道事業は東急電鉄が担い、不動産は東急不動産ホールディングス、建設は東急建設とグループ内で分業しています。「鉄道の技術者として入るのか、まちづくりの担い手として入るのか」でエントリー先が変わるため、グループ構造を理解したうえで応募先を選ぶことが重要です。

06東京メトロ(東京地下鉄)営業利益率21.2%

営業収益 4,224億円/営業利益率 21.2%/本社 東京都台東区

2026年3月期は営業収益4,224億円(前期比3.6%増)、営業利益896億円(同3.0%増)。旅客運輸収入が引き続き好調で、平日・休日ともに改札機入出場数が3%前後伸びました。都心5区の伸びが特に強く、オフィス回帰とインバウンドの両方を取り込んだ形です。

2024年10月に上場した比較的新しい上場企業で、鉄道単一事業に近い構造でありながら営業利益率21.2%という高収益を確保しています。9路線を高密度で運行する東京23区という市場の強さが背景です。一方、2027年3月期は営業利益814億円(同9.1%減)と減益を計画しており、有楽町線延伸(豊住線)・南北線品川延伸という大型投資局面に入ります。

理系のポイント

新線建設という、いまの日本ではほとんど経験できない仕事があります。地下構造物のシールド工事、狭隘な地下空間での設備更新、ホームドア整備、輸送指令システムなど、土木・電気・機械の技術者にとってテーマが濃い会社です。勤務地が東京23区内に集約されており転勤負荷が小さいのも、他社と比べた実務上の違いです。

航空2社

07ANAホールディングス売上・利益ともに過去最高

売上高 2兆5,392億円/営業利益率 8.6%/本社 東京都港区

2026年3月期は売上高2兆5,392億円(前期比12.3%増)、営業利益2,174億円(同10.6%増)、純利益1,690億円(同10.5%増)で売上高・営業利益・純利益のすべてが過去最高。国際線旅客は旅客数902万人(同11.8%増)・収入8,789億円(同9.1%増)と伸長しました。

2025年8月に日本貨物航空(NCA)を株式交換でグループ化し、国際貨物ネットワークを大幅に強化した点が2026年3月期の大きな構造変化です。一方、国内線の収益性が構造的に厳しいことは会社自身が課題として明言しています。2027年3月期は売上高2兆7,700億円と過去最高を計画する一方、中東情勢による燃油費高騰を織り込み営業利益は1,500億円と大幅減益の計画です。

理系のポイント

技術系の中心は整備(機体・エンジン・装備品)と技術管理、運航技術、空港オペレーション、ITです。航空整備士は国家資格の取得が前提となるキャリアで、入社後の育成期間が長い一方、専門性が明確に積み上がります。整備部門は羽田・成田・伊丹・沖縄などの空港拠点勤務が基本です。パイロット(自社養成)を志望する場合は、理系の学部・学科は問われませんが選考プロセスが完全に別建てです。

08JAL(日本航空)中期計画の財務目標を全達成

売上収益 2兆125億円/EBITマージン 10.8%/平均年収 949万円/本社 東京都品川区

2026年3月期は売上収益2兆125億円(前期比9.1%増)で再上場後初の2兆円超。EBIT(財務・法人所得税前利益)は2,180億円(同26.4%増)で過去最高益、EBITマージン10.8%・ROIC9.5%・EPS306円と、2021〜2025年度中期経営計画の財務目標をすべて達成しました。

収益構造はフルサービスキャリア(売上収益1兆5,874億円)/LCC(ZIPAIR・SPRING JAPAN)/マイル・金融・コマース(EBIT455億円)の3本柱。特に利益率の高いマイル事業が安定的に伸びている点が、ANAとの構造上の違いとして読み取れます。2026年3月に「JALグループ経営ビジョン2035」を発表し、10年先を見据えた変革フェーズに入りました。

理系のポイント

ANAと同様に整備・運航技術・空港・ITが主戦場ですが、データ・デジタル領域の採用枠が明確に立っている点が近年の特徴です。有価証券報告書ベースの平均年収949万円はANA HD(持株会社単体730万円)より高く見えますが、JALは事業会社が提出会社であるためそもそも母集団が違います。単純比較は避けてください。

海運3社

09日本郵船平均年収1,435万円

売上高 2兆4,237億円/営業利益率 5.7%/平均年収 1,435万円/本社 東京都千代田区

2026年3月期は売上高2兆4,237億円(前期比6.4%減)、営業利益1,386億円(同34.3%減)、経常利益2,111億円(同57.0%減)と大幅な減収減益。コンテナ船の運賃市況下落と、自動車船における円高・荷役費上昇が主因です。航空運送事業は日本貨物航空のANAへの株式交換により、2026年3月期第2四半期以降は連結対象外となりました。

海運を読むうえで重要なのが「営業利益と経常利益が大きく乖離する」点です。コンテナ船事業を統合した合弁会社ONEの損益が持分法投資損益として営業外に計上されるため、経常利益のほうが本業の実態に近くなります。営業利益率5.7%という数字だけを見て「収益性が低い」と判断すると誤読します。

理系のポイント

採用は陸上職事務系/陸上職技術系/海上職の3コースに明確に分かれます。陸上職技術系は新造船の仕様決定、安全品質管理、代替燃料(LNG・アンモニア・メタノール)などの環境技術が中心。海上職は航海士・機関士として船上勤務があり、東京海洋大学・神戸大学海事科学部などの商船系出身者が多数を占めますが、他学科からの採用もあります。

10商船三井平均年収1,437万円(14社中最高)

売上高 1兆8,250億円/営業利益率 7.0%/平均年収 1,437万円/本社 東京都港区

2026年3月期は売上高1兆8,250億円、営業損益1,270億円、経常損益1,758億円、純利益2,132億円。運賃市況の下落を受けて減益となりましたが、LNG船や海洋事業といった長期契約型ビジネスの比率が高いため、コンテナ船依存度が高い場合に比べて業績の振れ幅は相対的に抑えられています。

不動産、フェリー(フェリーさんふらわあ)、客船などの非海運事業も抱えており、市況変動の緩衝材としての役割を担っています。有価証券報告書ベースの平均年収1,437万円は今回の14社中で最高です。

理系のポイント

技術系のテーマはLNG・アンモニア燃料船、洋上風力を含む海洋エネルギー、船舶の安全品質管理など。エネルギー転換の最前線に近い領域が多く、機械・船舶・化学系の学生にとってテーマの魅力が大きい会社です。海上職と陸上職で働き方が大きく異なるため、応募コースの選択は慎重に検討してください。

11川崎汽船

売上高 1兆184億円/営業利益率 8.3%/平均年収 1,223万円/本社 東京都港区

2026年3月期は売上高1兆184億円(前期比2.8%減)、営業利益842億円(同18.2%減)、経常利益1,091億円(同64.6%減)。主力の製品物流セグメントは売上高6,164億円と微増でしたが、セグメント損益は908億円(同69.0%減)と大きく落ち込みました。自動車船事業で米国向け追加関税と期末の中東情勢悪化による配船変更・燃料費上昇が響いた形です。

一方でエネルギー資源セグメントはセグメント損益96億円(同96.9%増)と大幅改善しています。海運3社の中で最も規模が小さく、そのぶん市況感応度がもっとも高いのが特徴です。

理系のポイント

「DRIVE GREEN PROJECT」を掲げ、環境負荷低減を経営の前面に置いています。組織規模が3社中で最もコンパクトなため、若手が担当領域を広く持ちやすいという声があります。海運3社は事業構造が似ているため、志望動機では「なぜ3社の中でこの会社か」を市況・船種構成・企業文化のレベルで説明できる準備が必須です。

陸運・物流3社

12NIPPON EXPRESSホールディングス(旧・日本通運)

売上収益 2兆5,748億円(2025年12月期)/営業利益率 2.0%/本社 東京都千代田区

2025年12月期は売上収益2兆5,748億円(前期比0.1%減)、営業利益514億円(同4.9%増)。営業利益率2.0%という数字は、フォワーディング(国際輸送の仲介)という業態そのものの薄利構造を反映しています。取扱高が大きくても、実運送を担う航空会社・船会社への支払いが原価となるためです。

2026年12月期は営業利益1,000億円(同94.2%増)という大幅な収益改善を計画しており、収益性・資本効率の改善が経営課題として明示されています。事業は日本・米州・欧州・東アジア・南アジアオセアニアの5地域ロジスティクスに加え、警備輸送・重量品建設・物流サポートという特殊領域を持ちます。

理系のポイント

注目したいのは重量品建設事業です。発電設備やプラント機器といった超大型・超重量物の輸送と据付を担う領域で、機械・土木系の知識が直接生きます。また倉庫自動化・マテハン設計、輸配送計画の最適化といったロジスティクスエンジニアリングの領域も広がっています。海外50か国超に拠点があり、海外駐在の機会は今回の14社の中でも多いほうです。

13ヤマトホールディングス

営業収益 1兆8,657億円/営業利益率 1.5%/本社 東京都中央区

2026年3月期は営業収益1兆8,657億円(前期比5.8%増)、営業利益283億円(同99.2%増)と大幅増益。プライシング適正化で297億円の増益効果を創出したことが主因です。ただし純利益は136億円(同64.0%減)で、前期に計上した本社ビル等のセール・アンド・リースバックに伴う特別利益の反動によるものです。

数量面では宅急便3商品が19.41億個(同1.0%減)と減少し、ネコポス・クロネコゆうパケットが4.51億個(同15.4%増)と伸びました。「単価を上げて、小型薄物にシフトする」という構造転換が進行中です。集配拠点を約2,900拠点から約1,800拠点へ集約する大型再編も継続しています。

理系のポイント

営業利益率1.5%という薄利は、逆に言えば1%の効率改善が利益を大きく動かすということです。AI・データによる需要予測と配車最適化、大型ターミナルの自動化設備、EV・ドローンを含む輸送手段の刷新など、情報系・機械系・経営工学系の学生にとってインパクトの大きいテーマが並びます。表の平均年収1,226万円は持株会社単体の数値であり、事業会社ヤマト運輸の水準とは大きく異なる点に注意してください。

14SGホールディングス(佐川急便)

営業収益 1兆6,448億円/営業利益率 5.5%/本社 京都市

2026年3月期は営業収益1兆6,447億円(前期比11.2%増)、営業利益902億円(同2.7%増)、純利益591億円(同1.6%増)。主力のデリバリー事業は営業収益1兆485億円(同4.5%増)・営業利益701億円でした。営業利益率5.5%はヤマトHDの1.5%を大きく上回り、宅配大手2社の収益構造の違いがはっきり出ています。

成長の軸はM&Aです。低温物流の名糖運輸/ヒューテック(旧C&Fロジホールディングス)を取り込んでコールドチェーンを構築し、2026年3月期第2四半期からはグローバル物流のMorrison社を連結化しました。一方でグローバル物流事業は米国の通商政策の影響を受け、航空・海上運賃の下落に直面しています。

理系のポイント

ヤマト同様に物流ネットワーク設計・倉庫自動化・輸配送最適化が技術系の主戦場です。加えて低温物流の拡大により、冷凍冷蔵設備・温度管理技術という領域が広がっているのがSGHDの特徴です。デリバリー事業はセールスドライバーを含む大規模な現業組織を抱えるため、技術系であっても現場理解が強く求められます。

4. 理系学生が就く主な職種と、対応する学科

「運輸業界の理系職種」は業態をまたぐと中身が変わります。自分の学科がどこで効くのかを確認してください。より広い職種の全体像は技術職の職種研究|理系の主要職種を徹底解説で整理しています。

職種主な仕事内容親和性の高い学科主な業態
施設(土木)線路・橋梁・トンネル・高架橋の設計、保守、耐震補強、新線建設土木・社会基盤・環境鉄道
建築駅舎・駅ビル・物流施設の設計と工事監理、駅まちづくり建築鉄道/物流
電気・信号通信変電設備、架線、信号保安システム、輸送指令、ホームドア電気電子・情報通信鉄道
車両・機械車両の設計と検修、機械設備、空調・エスカレーター等機械・材料鉄道
航空整備・技術機体・エンジン・装備品の整備、技術管理、信頼性解析機械・航空宇宙・電気航空
陸上職技術系(海運)新造船の仕様決定、安全品質管理、代替燃料・環境技術機械・船舶海洋・化学海運
海上職(航海士・機関士)船舶の運航、機関の運転と保守商船系(海洋工学・海事科学)海運
ロジスティクス
エンジニアリング
倉庫自動化・マテハン設計、輸配送計画の最適化、拠点設計機械・経営工学・情報物流
IT・DX・データ需要予測、AI配車、MaaS、決済基盤、シミュレーション情報・数理・統計全業態
環境・エネルギー脱炭素燃料(SAF・アンモニア・バイオ)、省エネ、再エネ導入化学・機械・エネルギー海運/航空/鉄道

学科別の「狙い目」

  • 土木・建築系:鉄道が第一候補です。特に東京メトロ(新線建設)、JR東海(リニア)、JR東日本(駅まちづくり)は大型プロジェクトが動いており、若手のうちから規模の大きい案件に触れられます。
  • 機械系:選択肢が最も広い学科です。鉄道車両、航空整備、船舶の新造・技術管理、物流のマテハン設計まで、4業態すべてに入口があります。逆に言えば「なぜこの業態か」を自分で説明する必要が最も大きい学科でもあります。
  • 電気・電子系:鉄道の電気・信号通信は慢性的に人材需要が強い領域です。航空機システム、空港設備、車両制御も対象になります。
  • 情報・数理系:全業態で募集がありますが、インパクトが大きいのは物流(配車・需給最適化)と鉄道(Suica等の決済・データ基盤)です。「輸送量×単価」の産業では、予測精度の改善が直接利益になります。
  • 化学・材料系:脱炭素燃料が焦点です。航空のSAF、海運のアンモニア・メタノール燃料、鉄道のバイオディーゼル(JR西日本が国内初の100%次世代バイオディーゼル営業運転を実施)など、テーマが立ち上がっています。
  • 商船・海洋系:海運の海上職が本流ですが、陸上職技術系という道も必ず検討してください。船に乗るか、船をつくり管理する側に回るかで、キャリアの形が大きく変わります。

「自分の学科がどの業態に向いているか分からない」という段階なら、企業研究より先に理系学生のための自己分析で、技術との距離の取り方(守る/つくる/最適化する)を整理するのが早道です。運輸業界はこの3タイプで働き方がはっきり分かれます。

5. 残業と有給休暇 ── 公式に開示されている数値だけを並べる

就活生が最も知りたい項目でありながら、運輸・鉄道業界には統一形式の開示ルールがありません。クチコミサイトの集計値は手軽ですが、投稿者の主観にもとづく参考値であり、企業の公式見解ではありません。ここでは各社が自ら公表している数値だけを、実際に入社する事業会社の単位で掲載し、公表が確認できない企業は「非公表」と明記します。

まず業界の水準を知る(厚生労働省の統計)

個社の数値を見る前に、業界全体の相場を押さえておくと判断がぶれません。年次有給休暇については、厚生労働省の「就労条件総合調査」に産業別の実績があります。

区分平均付与日数平均取得日数平均取得率
全産業計18.1日12.1日66.9%
運輸業,郵便業17.4日11.4日65.3%
企業規模1,000人以上18.5日12.8日69.0%

出典:厚生労働省「令和7(2025)年就労条件総合調査」(2024年1年間の実績)

読み取れることは2点あります。第一に、運輸業・郵便業の有給取得率65.3%は全産業計を下回ります。第二に、しかし今回取り上げた14社はすべて従業員1,000人以上の大企業であり、その規模帯の平均は69.0%・12.8日と業界平均より高くなります。比較すべき相手は「運輸業の平均」ではなく「大企業の平均」だと考えてください。

残業時間については産業別・企業規模別の公的統計が限られますが、参考値として厚生労働省「毎月勤労統計調査」の2025年平均では、一般労働者(調査産業計)の月間所定外労働時間は13.2時間となっています。

各社の公式開示(2024年度実績・事業会社ベース)

掲載しているのは、持株会社ではなく実際に採用・勤務の主体となる事業会社(阪急電鉄・全日本空輸・ヤマト運輸・佐川急便など)の数値です。開示主体と集計範囲を各行に明記しました。表は横にスクロールできます。

横にスクロールできます
開示主体(事業会社) 年次有給休暇 月平均の時間外労働 集計範囲・出典
■ 鉄道
東日本旅客鉄道
JR東日本
17.6日(89.3%) 15.6時間
総合職採用 23.5時間/
地域総合職採用 14.5時間
単体。有給は自社「人的資本に関する情報」、残業は厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」(法定の算式・対象正社員)
東海旅客鉄道
JR東海
非公表
※取得率80%以上を目標に設定
非公表 サステナビリティサイトに推移グラフの掲載はあるが、数値は明記されていない
西日本旅客鉄道
JR西日本
約17.3日
(取得率は非公表)
非公表 単体。新卒採用サイト「多様な働き方」。付与は初年度15日・最大20日
阪急電鉄 非公表 非公表 阪急阪神ホールディングスのサステナビリティ開示に事業会社別の数値なし
東急電鉄
総合職採用は東急(株)
非公表 非公表 鉄軌道事業は東急電鉄が担うが、総合職は東急(株)採用で東急電鉄へ出向する形
東京地下鉄
東京メトロ
非公表 非公表 2024年上場のため開示体系を整備中とみられる(※筆者の推測)
■ 航空
全日本空輸
ANA(事業会社)
取得率 74.6%
(日数は非公表)
8.9時間 全日本空輸単体。残業は運航乗務員・客室乗務員を除く。ANAグループ「人事関連データ」(第三者保証取得)
日本航空
JALグループ
取得率 80.0%
(日数は非公表)
10.2時間
(時間外+休日労働)
JALグループベース。総実労働時間は1,875時間(目標1,850時間)。サステナビリティサイト
■ 海運
日本郵船 18.0日(61.4%) 17.3時間 単体。有給は海上職・出向者を除き夏季冬季特別休暇を含む。「サステナビリティデータ集」
商船三井 16.6日(63.8%) 12.5時間
(法定外残業)
単体。有給は海上勤務者を除き夏季休暇を含む。「サステナビリティデータ集(社会データ)」
川崎汽船 非公表 非公表 ESGデータに労働時間・有給の項目なし(育休取得率・離職率などは開示)
■ 陸運・物流
日本通運
NIPPON EXPRESSグループ
非公表 非公表 グループの社会データに労働災害・研修等の開示はあるが労働時間・有給の項目なし
ヤマト運輸
ヤマトグループ
18.1日(90.5%) 実数は非公表
※2020年度比13.5%削減と開示
国内連結会社および(株)スワン。「ESGに関するデータ類」
佐川急便 非公表 非公表 ESGデータ集に労働時間・有給の項目なし(定着率・離職率などは開示)

読むときの注意

算定の対象範囲が企業ごとに異なるため、単純な横並び比較はできません。ANAは運航乗務員・客室乗務員を除いた数値、日本郵船・商船三井は海上職を除いた陸上勤務者の数値、JALとヤマトはグループベース、JR東日本は雇用管理区分ごとの数値です。数字を見る前に「どの範囲の社員の数字か」を必ず確認してください。

海運2社の有給取得率が6割台にとどまるのは、夏季・冬季の特別休暇を分母の年次有給休暇と別枠で持っていることも一因です。取得日数で見ると日本郵船18.0日・商船三井16.6日と、鉄道各社と大きくは変わりません。率と日数の両方を見るのが誤読を避けるコツです。

「非公表」は必ずしもマイナス評価ではありません。ただし、働き方の実績を数値で公表しているかどうか自体が、その企業の情報開示姿勢を映す指標にはなります。今回の14社では、公表している企業と公表していない企業がちょうど半々に分かれました。

6. 残業・有給を自分で調べる3ステップ

第5章で「非公表」とした7社についても、調べる方法はあります。むしろこの手順を身につけておくと、運輸業界に限らずどの業界の企業研究でも使えます。

STEP 1厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」で調べる

最初に見るべきはここです。女性活躍推進法に基づき、常時雇用労働者301人以上の企業には情報公表が義務づけられており、「一月当たりの労働者の平均残業時間」「年次有給休暇の取得率」が法令で定められた統一の算式で掲載されています。企業名で検索するだけで、雇用管理区分(総合職/エリア職など)ごとの残業時間まで確認できる企業も多くあります。無料で、登録も不要です。
女性の活躍推進企業データベース(厚生労働省)

STEP 2各社のサステナビリティ/人的資本ページと採用サイトを見る

上場企業の多くは、サステナビリティサイトの「社会性データ」「人的資本に関する情報」「ESGデータブック」に人事関連の実績値を掲載しています。数値が見つからない場合は新卒採用サイトの「数字で見る」「働く環境」ページを確認してください。JR西日本のように、採用サイトにだけ平均取得日数を載せているケースがあります。

STEP 3『就職四季報』とクチコミサイトで補う

『就職四季報』(東洋経済新報社)には、企業が同誌の調査に回答した残業時間・有休取得日数・3年後離職率が掲載されています。大学のキャリアセンターや図書館に置かれていることが多いので、まず確認してください。OpenWorkなどのクチコミサイトも、公式データを補う「体感値」としては有用です。ただし投稿者の主観にもとづく参考値であり、職種や部署による差が大きい点は割り引いて読む必要があります。

OB・OG訪問で聞くなら、数字より「分布」を聞くのがおすすめです。「平均残業時間は?」ではなく、「一番忙しい部署と一番落ち着いている部署で、月の残業はどれくらい違いますか」と聞くと、平均値では見えない実態が分かります。運輸業界は現業・シフト勤務・海上勤務など働き方の幅が大きいため、平均値の情報価値がそもそも低いのです。

7. 2026年、運輸・鉄道業界を動かす5つのトレンド

① インバウンドと万博が押し上げた「過去最高益」の年だった

2026年3月期は、JR東日本(発足以来の最高収益)、JR西日本(過去最高益)、阪急阪神HD(全項目で過去最高)、ANA HD(売上・営業利益・純利益すべて過去最高)、JAL(EBIT過去最高)と、鉄道・航空で「過去最高」が並んだ年でした。訪日需要の定着と大阪・関西万博が主な押し上げ要因です。

② 「値上げできる産業」への転換が進んだ

ヤマトHDがプライシング適正化で297億円の増益効果を創出し、営業利益を前期比99.2%増としたのは象徴的です。長年「安く運ぶ」ことを競ってきた輸送業が、適正な価格を収受する産業へ構造転換している局面にあります。鉄道各社の運賃改定検討も同じ流れです。選考では「値上げは顧客離れを招かないのか」という論点に自分の考えを持っておくと強いです。

③ 労働力不足が最大の経営リスクになった

JR西日本が決算短信で「労働力不足やインフレ等、経営に重大な影響を及ぼす環境の変化がより顕在化してきました」と明記しているように、人手不足は精神論ではなく開示事項になっています。ホーム柵の整備、駅業務の省人化、鉄道DXによる業務プロセス変革、物流の自動化投資はすべてこの文脈です。理系人材への期待が構造的に高まっている理由がここにあります。

④ 脱炭素が「技術テーマ」として動き出した

JR西日本は国内で初めて次世代バイオディーゼル燃料100%使用のディーゼル車両による営業列車を運行し、日本郵船は低炭素アンモニアの輸送契約や自動車専用船での100%バイオ燃料の長期運用検証を進めています。航空のSAF(持続可能な航空燃料)も含め、脱炭素は化学・機械系にとって最も実装が近いテーマになりました。

⑤ 2027年3月期は「減益計画」が並ぶ ── ここが差のつくポイント

好決算の一方で、各社の次期計画は慎重です。JR東海は営業利益7,020億円(前期比15.4%減)、JR西日本は1,650億円(同16.7%減)、東京メトロは814億円(同9.1%減)、ANA HDは1,500億円(同31.0%減)、阪急阪神HDは1,217億円(同4.3%減)と、いずれも減益を計画しています。理由は共通で、中東情勢による燃油費高騰、万博需要の反動、米国の通商政策、インフレによるコスト増です。

面接での使い方:「過去最高益なので安定していると思いました」と話すと、業界研究の浅さが露呈します。「2026年3月期は好調だったが、各社は2027年3月期を減益で見ている。この環境で自分の専門をどう役立てるか」という組み立てにすると、一次情報を読んでいることが伝わります。

8. 企業選びの3軸 ── 「運輸業界志望」では通らない

軸1:稼ぎ方(何に業績が左右されるか)

国内インフラ型(鉄道)は業績が安定する一方、長期の人口減が構造課題です。国際市況型(海運・航空貨物)は好況時の利益が大きい反面、運賃市況で数倍単位に振れます。労働集約型(陸運・宅配)は物量と人件費に挟まれ、利益率が構造的に薄いです。「安定を取るか、振れ幅を取るか」は最初に決めるべき論点です。

軸2:勤務地と生活設計

ここが運輸業界で最も見落とされがちな軸です。鉄道は自社沿線内で異動が完結しやすく、東京メトロのように23区内で完結する会社もあります。一方で航空は全国の空港拠点、物流は全国拠点への転勤が前提、海運の海上職は数か月単位の船上勤務があります。年収の高さと生活の自由度は、この業界ではしばしばトレードオフになります。

軸3:技術との距離

同じ理系職種でも、①既存設備を守る(保守・運用)/②新しくつくる(新線建設・車両開発・新造船)/③最適化する(IT・データ・エンジニアリング)で日々の仕事が全く違います。「安全に運び続けること」に価値を感じるなら①、「大型プロジェクトを完成させること」なら②、「仕組みの効率を上げること」なら③です。ここを言語化しておくと、企業ごとの志望動機が自然に書き分けられます。

9. 選考対策 ── 運輸業界特有の3つの論点

論点1:「安全」を自分の言葉で語れるか

運輸業界は人命を預かる産業であり、安全に対する姿勢は必ず問われます。「安全が第一だと思います」では答えになりません。研究室での実験安全、部活動でのリスク管理、アルバイトでの事故防止など、自分が実際にリスクを想定して行動した経験を1つ用意しておいてください。JR西日本のように過去の重大事故を踏まえた取り組みを継続している会社では、この深さが直接評価されます。

論点2:現場配属を前提としたキャリア観

鉄道・航空・物流では、技術系であっても入社後数年は現場(駅・車両基地・空港・ターミナル)に配属されるのが一般的です。「研究の続きをしたい」という動機だけで臨むとミスマッチになります。「現場で何を得たいか」「その経験を将来どう使いたいか」を接続して語れるかが分岐点です。

論点3:研究概要書は「安全性・再現性」で書く

運輸業界の技術系選考では、研究テーマの先進性より「検証の丁寧さ」「再現性の担保」「異常時の対応」への関心が高い傾向があります。研究内容そのものが業務と直結しなくても、進め方が評価対象になります。書き方の型は研究概要書の書き方理系のエントリーシート(ES)の書き方で解説しています。

早い段階でやるべきこと

  • 現場を見る:鉄道・航空・物流はいずれも施設見学やインターンシップの機会が比較的多い業界です。現場を見た学生と見ていない学生の志望動機は、面接官から見ると明確に差がつきます。→ 理系のインターンシップ完全ガイド(2028卒向け)
  • 業態を絞る:4業態すべてを併願すると、志望動機がどれも薄くなります。まず2業態程度に絞るのが現実的です。
  • 大学院進学を検討中なら:運輸業界は学部卒採用が多い業界ですが、研究職・技術開発職では院卒が有利になる領域もあります。→ 理系は大学院に進学すべき?学部卒との違いを比較

10. その他の注目企業(主要14社以外)

今回の比較表には入れていませんが、理系就活生にとって有力な選択肢は他にもあります。志望業態が固まったら、必ず視野に入れてください。

企業注目したい理由
JR九州鉄道以外(不動産・建設・農業など)の比率が高く、地域経営型のビジネスモデル。九州志向の学生に有力
JR貨物モーダルシフト(トラックから鉄道へ)の中核。2024年問題を背景に社会的重要性が上昇中
近鉄グループHD/小田急電鉄
京王電鉄/東武鉄道/京成電鉄/西武HD/名古屋鉄道
大手私鉄。沿線が明確なため勤務地の見通しが立てやすい。鉄道+不動産+流通の複合経営という点は共通
ロジスティード(旧・日立物流)3PL(物流一括受託)の国内先駆。倉庫自動化とシステム構築の技術力が売り
山九/上組/三菱倉庫プラント物流・港湾運送・倉庫。BtoB色が強く知名度は低いが、機械・土木系の技術需要が大きい
センコーグループHD/福山通運/西濃運輸特別積合せ(路線便)や3PLの主要プレイヤー。物流の実務を広く経験しやすい
日本郵便郵便・荷物の全国ネットワーク。ユニバーサルサービスという独自の制約下での最適化が課題

11. よくある質問(FAQ)

なぜ比較表に残業時間や有給休暇の列がないのですか?

運輸・鉄道業界では、公表している企業とそうでない企業が半々で、しかも算定の対象範囲がばらばらだからです。海上職を含むかどうか、乗務員を含むかどうか、単体かグループかで数字は大きく変わります。開示のない企業をクチコミサイトの集計値などで穴埋めすると、基準の異なる数値が一つの表に並び、かえって誤った比較を招きます。本記事では第5章に事業会社ベースの公式開示だけを集計範囲つきで掲載し、第6章で自分で調べる手順を案内する構成にしました。厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」を使えば、法令で定められた同一の算式による数値をほぼすべての大企業について確認できますので、ぜひ活用してください。

鉄道会社は理系(技術系)でも、まず駅員から始まるのですか?

会社によりますが、技術系採用であっても最初は現場機関に配属されるのが一般的です。土木なら保線区、電気なら電力区・信号通信区、車両なら車両センターというように、専門に応じた現場からスタートします。総合職では駅や乗務員を短期間経験するローテーションを組む会社もあります。「技術系なのに現場に出るのか」ではなく、「現場の実態を知らずに設計・保守計画は立てられない」という設計思想だと理解しておくと、面接での受け止め方も変わります。

海運3社の平均年収が1,200万〜1,400万円と極端に高いのはなぜですか?

主な理由は3つです。第一に、提出会社(単体)の従業員数が少なく、本社の陸上職と海上職が中心であるため、平均が押し上げられます。第二に、海上職には乗船手当など船上勤務に対応した各種手当が加算されます。第三に、2021〜2023年のコンテナ船市況の歴史的高騰で業績が急拡大し、賃金水準がそのまま底上げされた経緯があります。ただし2026年3月期は3社そろって減益であり、この水準が今後も続く保証はありません。海上職は数か月単位の乗船勤務があるなど働き方も大きく異なるため、年収だけで判断しないでください。

航空はなぜ残業が10時間前後と少ないのに、年収は高めなのですか?

航空はシフト勤務が基本の産業だからです。整備・運航・空港業務は交替制で回すため、残業という形で労働時間が伸びにくい構造にあります。一方で、深夜早朝勤務手当や資格手当などが加算されるため、額面の年収は残業時間の少なさと比例しません。なお第5章のANAの数値は運航乗務員・客室乗務員を除いた地上職ベースであり、パイロットを含めた全社平均ではない点にご注意ください。

持株会社(ホールディングス)の平均年収は、就活の参考になりますか?

そのままでは参考になりません。有価証券報告書に載る平均年収は「提出会社(=持株会社)単体」の数値で、持株会社は経営管理を担う本社機能が中心です。社員数が少なく管理職比率が高いため、平均が実態より高く出ます。今回の表でヤマトHDが1,226万円となっているのはこの典型例で、事業会社ヤマト運輸の水準とは大きく異なります。応募先が事業会社(ヤマト運輸・全日本空輸・阪急電鉄など)なのか持株会社なのかを確認し、事業会社の初任給・モデル年収を採用サイトで見るのが正しい手順です。

2027年3月期は各社が減益を計画しています。いま入るのは不利ですか?

採用計画への影響は現時点では限定的だと考えられます(※以下は筆者の見解です)。減益要因の多くは燃油価格や通商政策という外部環境であり、各社が抱える構造課題はむしろ人手不足と省人化投資です。技術系人材への需要は景気サイクルとは別に強い状態が続いています。むしろ注意すべきは「業績が良い年の数字だけを見て入社を決めること」で、市況変動の大きい海運・航空貨物では、好況期の数字を平常値と誤解しないことが重要です。

学部卒と大学院卒で、扱いは変わりますか?

運輸業界は他業界と比べて学部卒の採用比率が高い業界です。現場運営を担う人員規模が大きく、実務のなかで専門性を積み上げる育成体系が確立しているためです。ただし研究開発職(車両技術、超電導リニア、代替燃料、データサイエンス)では院卒が中心となる領域もあります。初任給には学歴差がありますが、その後の昇進は職務等級で決まるのが一般的です。詳しくは理系は大学院に進学すべき?で解説しています。

まとめ

運輸・鉄道業界を志望するなら、まず「鉄道・航空・海運・陸運のどれなのか」を決めてください。この4業態は、収益構造も年収水準も働き方も、まったく別の産業と言っていいほど違います。

2026年3月期は鉄道・航空が過去最高益、海運が減益という明暗が分かれた年でした。そして各社の2027年3月期は減益計画が並びます。好調な数字と慎重な見通しが同時に存在しているのがいまの業界の姿です。この構造を踏まえて「自分の専門で何ができるか」を語れれば、志望動機の説得力は大きく変わります。

働き方の数値については、公表している企業とそうでない企業がちょうど半々でした。「表に載っていないから調べられない」わけではありません。第6章の手順を使えば、志望企業の残業時間と有給取得率は自分で確認できます。数値はあくまで出発点として、最後は勤務地と生活設計、そして技術との距離の取り方という、自分の側の条件で決めることをおすすめします。

出典一覧

売上高・営業利益(2026年3月期 決算短信・決算説明資料。NIPPON EXPRESS HDは2025年12月期)

平均年収:各社 有価証券報告書「従業員の状況」平均年間給与(提出会社単体)。原本は各社IRサイトおよび金融庁 EDINET で確認できます。

残業時間・有給休暇(第5章)

本記事の数値は2026年7月時点で公表されている資料に基づいて作成しています。決算数値・人事データは更新されるため、応募前に必ず各社の最新の一次情報をご確認ください。

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この記事を書いた人

大学において理工系学生の就職・キャリア支援業務に携わった経験をもとに、企業研究、業界研究、エントリーシート、自己分析など、理工系学生の就職活動に役立つ情報を発信しています。記事作成にあたっては、企業の公式サイト、有価証券報告書、統合報告書、官公庁資料などの一次情報を優先して確認しています。

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